まんがで読破 トルストイ「戦争と平和」の感想

読書の感想:歴史

あーりーです。

もうずいぶん昔になりますが、トルストイの『戦争と平和』を読みました。

 

全4巻のすごく長い小説でした。

 

それが1冊の漫画になったというからビックリです。

こちら↓

戦争と平和 (まんがで読破)
戦争と平和 (まんがで読破)

 

小説と漫画の厚さを比べてみると…

こんな感じです↓

 

戦争と平和

 

左が小説で、右が漫画です。

すごい圧縮率!

 

この要約力には頭が下がります。

 

『戦争と平和』ってどんな話?

小説の舞台は19世紀はじめのロシア。

ナポレオンのロシア遠征という歴史的大事件の中、ロシアの貴族たちが恋をしたり、戦争に行ったり、平和な日常生活を送ったり、祈ったり、挫折したり、迷走したり、決闘したり、夢を見たりする話です。

自分なりの主人公を決めて読む

『戦争と平和』の主人公は一般的にピエール(ベズーホフ伯爵)だとされています。

でも、これほどたくさんの登場人物がいる長大な小説だと、自分好みの人物に注目してその人のストーリーを追うことで、自分好みの『戦争と平和』を楽しむことができます。

ぼくの主人公はアンドレイ公爵

ぼくは小説を読んだとき、ピエールよりもアンドレイ公爵やロストフ家の人々が好きで、彼らに注目して読みました。だから正直なところ、ぼくにとっての主人公はアンドレイ公爵やロストフ家の人々なんです。

ピエールは脇役くらいに思っていました。ずいぶん目立つ脇役だなぁと(笑)

心に残る名場面

すごく心に残っているシーンがあります。

アンドレイ公爵がはげしい戦闘で負傷し、仰向けに倒れて動けなくなる場面です。

倒れたアンドレイ公爵は、戦場の上に広がる美しい青空を、思いがけなく目にします。

戦場の喧騒と、空の悠久。

ぼくはこの場面が大好きです。

激しい戦闘の中、空の美しさに気づくアンドレイ公爵

小説から、少し引用します。

無限に深い、高い空のほかは、もう何も見えなかった。

『なんというしずけさだろう、なんという平和だろう、なんという荘厳さだろう、おれが走っていたときとは、なんという相違だろう』

引用元:戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

憧れていたナポレオンがすぐそばに

戦闘が終わった後…

負傷して動けないアンドレイ公爵のそばに、敵将ナポレオンがやってきます。

アンドレイ公爵にとってナポレオンは敵ですが、心のどこかで英雄としてのナポレオンに憧れ、尊敬をしていました。

そのナポレオンが今、彼のそばに来たんです。

 

アンドレイ公爵は感激したのかというと…

そうではありませんでした。

永遠の蒼穹を見上げ、青空の荘厳さを感じた彼にとって、世界の見え方は一変していました。

尊敬していたナポレオンがちっぽけに見える

そのときのアンドレイ公爵の心境を引用します。

 

彼は、それが自分の憧れの英雄ナポレオンであることを、知っていた、しかしいまは、自分の魂と、はるかに流れる雲を浮べたこの高い無限の蒼穹とのあいだに生まれたものに比べて、ナポレオンがあまりにも小さい、無に等しい人間に思われたのだった。

 

彼はだた自分のそばにだれかが足をとめてくれたことだけがうれしかった。そしてその人々が自分を助けて、自分を生活へ――いまこそその解釈をすっかり変えたので、限りなく美しいものに思われた生活へ――もどしてくれることだけを渇望していた。

引用元:戦争と平和〈1〉 (新潮文庫)

 

「ナポレオン熱」から覚めたアンドレイ

アンドレイは「ナポレオン熱」から覚めました。

ナポレオンの存在は、アンドレイの中で急速に小さくなり、意味がなくなり、軽蔑の対象にすらなります。

いまや彼にとってナポレオンは、戦争狂のちっぽけな虫けらにすぎません。

ふつうの日々の美しさ

ふつうの日々の美しさに気がついた彼は、生きてモスクワに帰り、愛する家族と美しい日常を生きることを渇望します。

この場面、とっても大好きです。

この場面を漫画にするむずかしさ

『まんがで読破 戦争と平和』にも、この場面が描かれています。

でもこの場面をふつうに絵にすると、何の動きもないんです。

だって、アンドレイはただ仰向けに倒れて寝ているだけです。

絵にすると、それだけの場面です。

絶妙なアレンジ

そこを『まんがで読破 戦争と平和』はすごくうまく描いていて驚きました。

漫画なりの演出(アレンジ?)で、ちゃんとアンドレイの心境を表現しているんです。

漫画を読んだとき、この場面をこんなふうに描く手があったのか!と新鮮な気持ちになりました。

それがどんなアレンジか、あまり暴露してしまうのもアレなので、ぜひ本書を手に取って味わっていただければと思います。

詩情のある漫画化

長編小説を1冊の漫画にするには、要約や再構成や、漫画ならではのアレンジが必要になると思うんです。

「まんがで読破」シリーズには、それらに加えて詩情があります。

まんがで読破 ファウスト』や『まんがで読破 赤と黒』もそうでしたけど、とくに漫画の終わり方に詩情を感じます。

いい「漫画化」と出会うことが、名作への興味につながる。そんなことを感じさせてくれます。

戦争と平和 (まんがで読破)

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