あーりーです。
阿刀田高さんの短編集『ナポレオン狂』は、ずっと昔、ナポレオンという名前に惹かれて買いました。
表題作『ナポレオン狂』をふくめて13本の短編小説が載っています。
物語の仕掛けに驚いたり、身が震えたり、不思議な気持ちになったりします。
どちらかというと、物語の仕掛けを期待して先を急いで読むよりは、安定した文章をじっくり舐めまわして、ひと作品ごとの世界観を味わうような楽しみ方が似合っている短編集に感じました。
『ナポレオン狂』
表題作ですね。
ナポレオンが大好きで、ナポレオンに関係するものなら何でもコレクションしている男と、自分はナポレオンの生まれ変わりだと信じる男の話です。
ほのかな恐怖に身がすくむような読後感でした。
『来訪者』
生まれたばかりの赤ちゃんを育てる母親と、その家でベビーシッターの仕事をしたいと考えている謎の女性の話です。
謎の女がなぜベビーシッターをしたがるのか。それがわかったときのあの恐怖。ゾッとします。かなり怖い終わり方でした。
『恋は思案の外』
会社の金に手をつけた娘のために、誘拐の完全犯罪を計画する父親の話です。背筋が冷たくなる結末の作品が多い中で、なんとなく安心できるオチなのがありがたいです。
事件をあつかった作品なので、安心できるという言い方は良いのか悪いのかわかりませんが。でも、ほかの作品にあるような、真相を想像したときの冷たい戦慄はありません。そこに救われます。
『甲虫の遁走曲』
ある日突然、愛車が話しかけてきた、という話。ファンタジー系なのかな…と思ったら、じつはそうではなく、ちゃんとしたオチがありました。これもちょっとブラックなオチです。
ほかにもいろいろ
ほかにもいろいろな作品が載っています。
不老不死の男が現代に現れる『サン・ジェルマン伯爵考』。
妻の浮気を疑う男の話『裏側』。
ゴルフ好きの貴族を描いた『ゴルフ事始め』。
時間がループしているのか、していないのか、不思議な話『捩れた夜』。
ある喫茶店で出会った男女の話『透明魚』。
すべてがイヤになったサラリーマンがいつもとは違う電車に乗る『蒼空』。
夫婦の何気ない会話にゾッとするオチがある『白い歯』。
これも怖い結末の『狂暴なライオン』。
小説家から編集者への手紙という形をとった小説『縄』。
感想
真相の真相まではっきり書くのではなく、その周辺でふわっと寸止めするような終わり方が、かえって不気味さを増すことになって冷たく心に残ります。