ファーストガンダムの時代、ニュータイプという新しい言葉は、それぞれの人にとってそれぞれの意味をもっていました。
たとえば…
ジオン・ズム・ダイクンにとっては人類の革新をあらわす言葉でした。フラナガン博士にとっては戦いの道具、実験の対象でした。ハヤト・コバヤシにとっては嫉妬と偏見の対象でした。
今回は、小説「機動戦士ガンダム」から、ジンバ・ラルにとってのニュータイプとは何かを考えてみます。
ジンバ・ラルって誰?
ジンバ・ラルは、シャアとセイラの養父です。
ジオン・ズム・ダイクン亡きあと、彼の子であるシャア(キャスバル)とセイラ(アルテイシア)を育てました。
アニメでグフに乗っていたランバ・ラルの父でもあります。ちなみに小説のランバ・ラルはグフには乗りません。ギレンの秘密警察として活躍します。
ジンバ・ラルにとってニュータイプとは復讐の道具でした。
今は亡きジオンを大絶賛
ジンバ・ラルは、幼いセイラに次のような話をしました。
「御父上はニュータイプでした。人類が宇宙で生きるべき道を示された偉大なお方です。」(第1巻149ページ)
「ジオン様は、ニュータイプでいらっしゃいました」、「それは、人類が宇宙に大きく飛び立つ意識の拡がりですな。それを持ったお方をニュータイプといわずして何と申しましょう。偉大なお方です。」(第1巻203ページ)
と大絶賛です。
人類の希望
ニュータイプは人類の希望です。ジンバ・ラルもそのつもりで話をし、セイラもそのつもりで話を聞きました。
そのはずでした。
「セイラの父、ジオン・ダイクンはニュータイプだとジンバ・ラルは言った。それは、人類が宇宙の民として飛翔するルネッサンスなのだ。その概念づけ が正しければ、人類はこの大戦の中において、旧世代人類の技から抜け出す鍵を発見することができるはずなのだ。」(第1巻207ページ)
でも…
復讐の道具
ジンバ・ラルにとって、ニュータイプは人類の希望である以上に、いつの間にか復讐の道具になっていました。ザビ家への復讐の道具です。
ジンバ・ラルはセイラに言いました。
「アルテイシア様も、そのお父上の御子です。ニュータイプとして目覚め、いつの日かザビ家を打倒して、人類を真の平和な世界に導かれる方にならねばなりません」(第1巻203ページ)
ザビ家、打倒。
これです。ジンバ・ラルにとって、すべてはこれなんです。
ザビ家への復讐
ジンバ・ラルがセイラにニュータイプの話をするのは、結局のところ、ザビ家への復讐のためでした。
セイラは、ジンバ・ラルのこの誘導に乗りませんでした。この誘導に乗ったのはシャアです。シャアはご存じのように、父ジオンのかたきを討つため、ザビ家に接近します。
人類の希望として提唱された「ニュータイプ」が、その信奉者によって「復讐の道具」にされたのは、皮肉なことですね。