吉川英治さんの『新書太閤記』第4巻の感想です。
『新書太閤記』は豊臣秀吉が主人公の歴史小説です。
この一瞬を味わう
すごく印象に残っているシーンがあります。
秀吉が単身、敵方の城に乗り込んで行くシーンです。
秀吉は部屋で待たされることになり、そこに食事やお酒が出てきます。ごちそうです。
でも敵方の城であり、かけひきの真っ最中、命の保証もありません。
楽しく食事をするというわけには、とてもいきません。
秀吉はこう考えます。
「この酒もうまく飲めねばならぬはずだ。こういう間も人間の修行になろう。死んでゆくもの、生きのこる者、その差はどれほどか。一瞬ともいえるだろう。……長い長い幾千年の時の流れから大観すれば」
状況はどうあれ、この一瞬を味わう。
そんな気持ちの切り替えに、はっと目を見開かされる思いがしました。
このシーンだけ折にふれて何度も読み返しました。
ぼくにとって『新書太閤記』第4巻といえば、このシーンなんです。