書評をあつめた本です。イギリスは書評のレベルが高いことで有名なんだそうです。この本は、現代イギリス書評の名作選です。
どんな作品の書評が載っているかというと…
コナン・ドイルの『シャーロック・ホームズ』、紫式部の『源氏物語』、村上春樹の『象の消滅』…
さらに。
ウラジミール・ナボコフの『ロリータ』、サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』、プルーストの『失われた時を求めて』、アンドリュー・モートンの『ダイアナ妃の真実』など。
そのほかにもたくさんです。
これらの本についての、イギリス人のハイレベルな書評が読めます。
重厚
この本に載っている書評は、イギリス書評の中でもきっと一流のものなんだと思います。重厚ですね。ひとつの読み物として熟読できます。
この重みは、書評そのものの重みをぼくが理解できた上での重みなのか、傑作書評が集まっていることを知っていて読むから感じる重みなのか(笑)
書評に必要な要素
丸谷才一さんのまえがき「イギリス書評の芸と風格について」も良かったです。書評に必要な要素が書かれているんです。
内容の紹介
丸谷才一さんがいうには、書評にはまず「本の内容の紹介」という機能が必要だといいます。
その本を読んでいなくても、書評さえ読んでおかば、社交の場で「あの本はこうですね」とか「あの本は○○についての話ですね」とわたりあえる。
それが書評の最低条件なんだそうです。
書評とはまず、社交界で恥をかかないためのものだったんですね。
本の評価
書評にとって、つぎに大事なのが「評価」という機能です。
読むに値する本かどうか、です。
読者は書評家の信用度によって、書評家の意見を参考にしたり、しなかったりします。
イギリスの書評界はスター・システムになっていて、有名紙の主任書評家などは「まさしく大スター」なんだそうです。影響力もすごいんでしょうね。
文章の魅力
つぎに大事なのが「文章の魅力」です。
これが書評家をはなやかな存在(スター)にしてくれます。
文章の魅力とは何か。
それは、流暢、優雅、個性の3つの美質だそうです。
これは「書評家ならばかならず備えているもの」だそうです。
生きる力の更新
上にあげた「紹介」や「評価」よりも、もっと次元の高い機能として丸谷さんがあげているのが、「生きる力の更新」です。
引用します。
対象である新刊本をきっかけにして見識と趣味を披露し、知性を刺激し、あはよくば生きる力を更新することである。
なんか感動しますね。書評の役割のひとつが「生きる力を更新すること」とは。
書評について以上のような哲学をもつ丸谷さんが厳選した珠玉の書評集が、この本です。