最近は何かのために本を読むことが多かった。調べもののため、仕事に活かすため、予定されたアウトプットのため、お気に入りの文体に感化されるため、自分の中の問題を解決するため。
ぼくは読書そのものを楽しむんじゃなく、読書を何かの道具にしていたんです。そういう読書もアリです。でも、そうじゃない読書もアリです。
たまには何の目的もなく、ただ純粋に読書そのものを楽しんでみたいと思いました。むかしのぼくがそうだったように。
それがどんなに幸せなことか、以前のぼくはよく知っていました。あの喜びをまた味わってみたくなったんです。
そこで手に取ったのがツルゲーネフの『片恋』でした。
静かに、かすかに、胸の奥に広がるみずみずしい切なさ。胸躍る詩的なヨーロッパの情景が、行間から木漏れ日みたいにぼくの心をあたためてくれます。
澄みわたる大空も、かわいいドイツ娘も、ある夕暮れに聞こえてくるフルートの音色も、西日を受けて輝くライン河も、どれもすごく心地いい。心にぴったり寄り添ってくれるこの心地よさが、読書の癒しなんですよね。