京都に進撃中の足利尊氏のようすは…
部下「それにしても足利さん」
足利「ん?」
部下「われわれ、大軍ですね。これ、圧勝ですね」
足利「そうとも言えない」
部下「え?」
足利「むこうには楠木がいる」
部下「いくら楠木でも、この大軍が相手じゃ……」
足利「いや。やつは油断のできない男だ」
部下「そうですけど」
足利「楠木に領土を与えよう」
部下「は?」
足利「楠木に6ヵ国を与えるんだ。それで味方に引き込む」
一方…
ここは京都。
天皇「楠木くんは天才かなぁ」
側近「天才ですよ。今回もすごい作戦を考えてくれますよ」
天皇「でもさ、天才だからっていつまでも勝ち続けられるわけじゃないよね」
側近「それは、はい」
天皇「おれ、楠木くんをクビにしようと思うんだ」
側近「えっ?」
天皇「足利尊氏はエリートで、大軍で、人望がある」
側近「そうですね」
天皇「本当はそんなやつを敵に回すべきじゃないしょ」
側近「本当はね。そうですね」
天皇「でもおれがだらしないから、建武の新政が失敗して、武士の不満がつのって……」
側近「はい」
天皇「その不満をうまく束ねた足利尊氏がむくむくと台頭してきた」
側近「そうですね」
天皇「そして、おれvs足利尊氏の戦いが始まった」
側近「はい」
天皇「極端なこと言っちゃえば、これは楠木くんとは関係ない戦いだよね」
側近「まあ、言っちゃえば、はい」
天皇「でもおれ、楠木くんの才能に甘えちゃって、戦いは全部まかしちゃっててさ。結局、楠木くんを追い詰めてるよね」
側近「そうかもしれませんね」
天皇「楠木くんは天才だ。今回の戦いには勝つかもしれない。でも、その次は?」
側近「その次も、勝つかも知れませんよ」
天皇「勝つかも知れないね。でも、そのまた次は?」
側近「……」
天皇「足利尊氏は全国の武士を味方にしてる。長い目で見れば、こっちに勝ち目はない。勝ち目のない戦いに楠木くんを巻き込んじゃってるよね、おれ」
側近「じゃあ、どうするつもりです?」
天皇「じつはね、足利尊氏が楠木くんを味方に引き入れようとしてるみたいでさ」
側近「そうなんですか?」
天皇「これ、ちょうどいいチャンスだと思うんだ。楠木くんには、足利方へついてもらおう」
側近「本気ですか?」
天皇「本気ですよ。それが楠木さんのためでしょ」
側近「たしかに。そうですね」