反乱が発生した。天皇は兵士に訊ねた。
天皇「反乱の首謀者は誰なのさ」
兵士「北条さんっていう人です」
天皇「北条さん?」
兵士「はい。北条時行さん。滅びた鎌倉幕府の残党です」
天皇「面倒くさいやつが出てきたね」
兵士「反乱軍は長野県で挙兵して、鎌倉に入りました」
天皇「鎌倉幕府を復活させる気かな?」
兵士「そうかもしれません」
後醍醐天皇と足利尊氏の会話。
天皇「と、いうわけなんだ」
足利「はい」
天皇「今から鎌倉に行って、反乱を鎮圧してもらえる?」
足利「わかりました」
足利尊氏は京都を出発し、鎌倉に向かった。
側近「天皇さん、まずいじゃないですか!」
天皇「ん」
側近「足利さんを鎌倉に行かせたのは、まずいですよ」
天皇「なんで?」
側近「足利さんはつねに監視下においておかないと」
天皇「どうしてさ」
側近「だって、ついこの前まで敵だった人ですよ。裏切るかも」
天皇「まさか。だっておれ、足利さんに字あげたんだよ、字」
側近「それでも用心しなきゃ。つねに監視下においておくべきです」
天皇「でも、もう鎌倉に行っちゃったもん」
側近「すぐに足利さんに伝えたほうがいいですよ。反乱を鎮圧したらすぐに京都に戻って来い!って」
天皇「わかった。ケータイに電話しとく。あ!」
側近「どうしました?」
天皇「おれ、足利さんのケータイ番号、知らない」
側近「じゃあ、誰かが足利さんを追いかけて行って、直接伝えないと」
天皇「楠木くんにお願いしよう」
そんなわけで。
天皇「楠木くん。ちょっとお願いがあるんだけど」
楠木「あ、待ってください。言わないで」
天皇「え?」
楠木「どんな話か、当てますから」
天皇「は?」
楠木「天皇さんの考えてることをテレパシーで当てます。むむむ~」
天皇「なにそれ?」
楠木「僕、超能力の修行中なんです」
天皇「なに、急に」
楠木「昨日、『あの人は今』でユリ・ゲラーが出てたんですよ」
天皇「テレビの影響か。でも超能力者になってどうすんのさ」
楠木「ばんばんスプーンとか曲げます」
天皇「使いづらくなるしょ」
楠木「あ、わかった。給料アップの話ですね」
天皇「違う。じつは、伝言を頼まれて欲しいんだけど……」
そして。
楠木正成は足利尊氏を追って鎌倉に入った。
楠木「おーい。足利さ~ん」
足利「あ、楠木さん」
楠木「探しましたよ。どうですか、調子は?」
足利「先程、反乱を鎮圧したところです」
楠木「さすが。仕事が速いですね」
足利「ところで、なにかあったんですか?」
楠木「京都から伝言を持って来ました」
足利「お疲れ様です。それで、伝言というのは?」
楠木「むむむ~」
足利「……?」
楠木「今、伝言内容をテレパシーで送ってます。むむむ~」
足利「テレパシー?」
楠木「どうです? なにか感じます?」
足利「テンションの違いを感じます」
楠木「他には?」
足利「なにも」
楠木「今日は僕ちょっと疲れてるのかも」
足利「ところで伝言というのは?」
楠木「今日はもう寝ます。明日また挑戦させてください」
翌日。
楠木「むむむ~……。どうです? なにか感じますか?」
足利「ぜんぜん」
楠木「寝ます」
さらに翌日。
楠木「むむむ~……。どうです?」
足利「ぜんぜん」
楠木「むむむ~天皇さんからのむむむ~伝言はむむむ~」
足利「今、口で言ってますよね?」
楠木「ばれましたね」
足利「ばれましたよ」
楠木「じゃ、口で言っちゃっていいですか?」
足利「はじめからそうしてください」
楠木「天皇さんはこう言ってました。『反乱を鎮圧したらすぐに京都に戻って来い』と」
足利「すぐに?」
楠木「はい。すぐに」
足利「もっと早く教えてくれないとダメじゃないですか~!」
ここは京都。
天皇「足利さん、戻ってこないね」
側近「はい」
天皇「まだ反乱を鎮圧できてないのかな」
側近「いえ、反乱はとっくに鎮圧したはずです」
天皇「じゃあ、どうして戻ってこないんだろう」
側近「天皇さんの管理下に戻るのがいやなのかも」
天皇「それって、どういうこと?」
側近「足利さんには反逆の意思がある、ということですよ」
西暦1335年。
北条時行の反乱を鎮圧した足利尊氏は、天皇の上京命令を無視し、そのまま鎌倉に居座り続けた。
これをきっかけに、後醍醐天皇の新政は崩壊する。