話は約60年前にさかのぼる。当時の幕府と武士は、まだ仲が良かった。
幕府「えへへ。武士くん」
武士「えへへ。幕府さん」
幕府「おれたち、仲良しだね」
武士「もちろん」
幕府「おれ、かっこいい?」
武士「かっこいいっす」
幕府「例えばどこかっこいい? 言って。言って」
武士「土地くれるとこっすね」
幕府「そりゃ~きみたちが頑張って働いてくれるから、おれも土地くらいあげるさ」
武士「嬉しいっす。武士は土地が命っす」
幕府「あ、そういえば、びっくりニュース聞いたんだけど」
武士「なんすか?」
幕府「今ね、大陸のほうで大事件が起きてるらしいよ」
武士「大事件?」
幕府「モンゴル人が暴れまわってるの」
武士「うわ」
幕府「そいつらやたら強くてね、ユーラシア大陸の端から端まで征服しようとしてるの」
武士「ユーラシア大陸って?」
幕府「ヨーロッパとアジアをひっくるめた言い方」
武士「ふーん」
幕府「ヨーロッパアジア→ヨーロッパシア→ヨーラシア→ユーラシア。ね」
武士「なにそれ、ギャグ?」
幕府「いや、ギャグじゃないって」
武士「また強引に笑わせようとして」
幕府「違うって。ホントの語源だよ」
武士「どうせ昨日寝る前に考えたんでしょ。いまいち」
幕府「頼むって。違うって」
武士「でもそんなやつらが日本に攻めてきたら、怖いっすね」
幕府「たぶん来ないよ」
武士「なんで?」
幕府「日本は海に守られてるから」
武士「あ、海のむこう、見てください」
幕府「ん」
武士「大船団が来ますよ」
幕府「げっ! モンゴル軍だぁ!」
西暦1274年。モンゴルの大軍が日本に来襲した。(元寇)
幕府「モンゴルなんか、おっぱらえ~」
武士「わかりました。オリャー!」
幕府「おれも戦うぞ。オリャー!」
武士「敵、強いっすね」
幕府「おれたちも強い。がんばれ~」
武士「あ、雨だ」
幕府「うん。嵐だ」
嵐のせいで、モンゴルの大軍は海に沈んだ。
武士「勝ちましたね」
幕府「あつら、海の戦いは慣れてなかったみたいだ」
武士「はい」
幕府「おれたち、無敵のモンゴル軍を撃退しちゃったよ」
武士「日本最強っす」
幕府「モンゴルが惨敗するなんて世界的ニュースだ、こりゃ」
武士「ご褒美ください」
幕府「ん?」
武士「敵をやっつけたご褒美。土地」
幕府「今回は無理」
武士「なんでぇ?」
幕府「どうしても」
武士「今までは敵をやっつけたら、ご褒美の土地をくれてたじゃないっすかぁ~」
幕府「まあ、はなし聞けって」
武士「はい」
幕府「今までは、敵をやっつけたら、そいつの土地を奪って武士のみんなに分配してたんだ」
武士「はい」
幕府「今回は勝利したといっても、敵の土地を奪ったわけじゃない」
武士「じゃ、奪いましょう」
幕府「無理だって。海の向こうの外国だよ」
武士「えー。じゃ、ご褒美は、なし?」
幕府「仕方ないしょ。なし」
武士「給料もらえないのに命がけで戦って損した~」
幕府「まあまあ」
武士「幕府さん、大キライだ~!」
これが約60年前のできごと。
話はもどって…
西暦1333年現在。
天皇「あの時から、きみと武士ってギクシャクでしょ」
幕府「そんなことないよ」
天皇「あるよ」
幕府「ないね。お互い大人だもんね」
天皇「この戦い、おれが勝つよ」
幕府「それさ、本気で言ってるの?」
天皇「言ってる」
幕府「きみが勝つなんてね、ありえないから」
天皇「なんだと」
幕府「わかってると思うけど、きみには軍事力がない」
天皇「ま、まあね。気合はあるけど」
幕府「幕府の圧倒的軍事力に、どう対抗する?」
天皇「うぅ……」
幕府「気合だけじゃ、歴史は動かないんだよ」
ふたりは電話を切った。
そして。幕府は……。
家臣「あれ、幕府さん、お出掛けですか?」
幕府「うん」
家臣「どこ行くんです? そんな庶民っぽいカッコして」
幕府「楠木に会ってくる」
家臣「楠木って、あの?」
幕府「うん。あの」
家臣「彼は、敵じゃないですかぁ!」
幕府「いってきまーす」