第二基地(赤坂城)は、鎌倉幕府の大軍に包囲された。
七郎「兄ちゃん、やばいよ。囲まれたよ」
楠木「うん。日本で一番囲まれてるね」
七郎「敵の矢、がんがん飛んでくるんですけど」
楠木「ふふふ」
七郎「なにその笑い」
楠木「世に言う、不敵な笑みだよ」
七郎「いい作戦あるの?」
楠木「敵が弓矢なら、こっちは、これだ!」
七郎「おお、それは!」
楠木「鉄砲」
七郎「すげぇ」
楠木「しかも水鉄砲」
七郎「大人が持つもんじゃないよ」
楠木「対象年齢5歳以上。おれ、37歳。セーフ」
七郎「……」
楠木「ははは。冗談だよ」
七郎「こんなときに」
楠木「こんなときだからだよ」
七郎「なんだそれ」
楠木「どんな大ピンチのときでも、冗談のひとつくらい言えなきゃね」
七郎「うん。まあね」
楠木「じゃなきゃ、英雄になんてなれないよ」
七郎「それはいいけど、この大軍、どうやってやっつける?」
楠木「これを使う。きのう買った本」
七郎「なんの本?」
楠木「『必勝!戦術ハンドブック』1,400円。税別」
七郎「おぉ。お手軽に勝てそうだ!」
楠木「じゃあ、読むよ」
七郎「読んで読んで~」
楠木「必勝の法則その1」
七郎「うん」
楠木「自分より強い敵とは戦わないこと」
七郎「……」
楠木「……」
七郎「もう、戦っちゃってるね」
楠木「幕府軍はおれより弱い!」
七郎「今さら自分に言い聞かせても」
楠木「七郎」
七郎「はい」
楠木「お湯をわかせ」
七郎「は?」
楠木「お湯」
七郎「なんで?」
楠木「幕府軍を叩きのめす。こいつで」
七郎「その、水鉄砲で?」
楠木「いや、お湯鉄砲で」
赤坂城を包囲している足利高氏(幕府軍)のようす。
部下「あちっ。あちっ~」
足利「どうした?」
部下「お湯が降ってきます、お湯」
足利「お湯?」
部下「熱湯です。あちっ」
足利「むむ。本当だ。熱い。……うわ、あっちぃ!」
部下「ね」
足利「しまった!」
部下「どうしました?」
足利「『あっちぃ!』などというブロークンな言葉を口にしてしまったぁ!」
部下「大丈夫ですよ、そのくらい」
足利「もうエリートとしてやっていけない!」
部下「そんなことないです。落ち着いて」
足利「破滅だぁ!」
部下「とりあえず退却しましょう、ね」
足利「破滅だぁ!」
赤坂城の攻防戦において、楠木正成は熱湯を武器にするという奇策を用い、幕府軍を苦しめたという。
赤坂城のようす。
七郎「幕府軍、ちょっと撤退したね」
楠木「すげぇ、おれマジ天才かも」
七郎「一気に幕府軍に追い討ちをかけよう」
楠木「あわてるな。まずハンドブックを読もう」
七郎「そうだね」
楠木「必勝の法則その2」
七郎「なんて書いてあるの?」
楠木「つねに敵の意表をつくこと、だってさ」
七郎「意表っていってもねぇ」
楠木「七郎」
七郎「はい」
楠木「ライターある?」
七郎「あるよ。どうぞ」
楠木「さんきゅう」
七郎「あ、わかった。火攻め?」
楠木「甘~い」
七郎「違うのか」
楠木「まず新聞紙に火をつけて……」
七郎「やっぱ火攻めでしょ?」
楠木「床に捨てる。ポイ」
七郎「……」
楠木「……」
七郎「部屋、燃えてるけど大丈夫?」
楠木「普通、火攻めってさ、敵を攻撃するしょ」
七郎「あたりまえじゃん」
楠木「でもおれ今回、自分を攻撃してみた」
七郎「はぁ?」
楠木「どう? 意表ついてる?」
七郎「……」
西暦1331年10月。
楠木正成は自らの城に放火した。
赤坂城は炎上した。