織田信長は報道陣に取り囲まれた。
記者「信長さん、ひとこと、ひとことお願いします」
信長「どいてください。通してください」
記者「将軍追放について批判が集まっていますが、ひとこと」
信長「あとで事務所をとおしてコメントしますから。通してください」
記者「将軍を追放するという暴挙に出た真意は?」
信長「ていうか、あれ、おれの仕業じゃないんで」
記者「じゃあ、誰の?」
信長「サルです、サル」
記者「実行犯は秀吉なんですか!?」
信長「おれは事後承諾しただけだから」
そのころ。
信長の義弟のようす。
義弟「お兄ちゃん、おれのこと怒ってるかな?」
部下「16話で裏切っちゃいましたからね」
義弟「うん」
部下「あの人、キレたら何するかわかりませんもんねぇ」
義弟「つい先日も、将軍様を追放しちゃったんでしょ?」
部下「あ、そのことですけど、将軍様を追放したのは、秀吉らしいですよ」
義弟「え、そうなの?」
部下「信長さんは事後承諾しただけだって、今朝のワイドショーで言ってました」
義弟「秀吉って男もいかれてるね」
部下「天下の将軍様を追放するなんて、信長さん以上のブチキレ野郎ですよ」
義弟「本当に怖いのは秀吉だね」
部下「はい」
信長のようす。
信長「もー、サルぅ」
秀吉「はい」
信長「サルのせいでおれ、なまらマスコミに叩かれてるしょー」
秀吉「す、すいません」
信長「早く将軍様、連れ戻して来てやー」
秀吉「はい、探してみます」
と、言ったはいいが……
秀吉「将軍様、どこにいるんだろう」
兵士「心当たり、ないんですか?」
秀吉「ぜんぜん」
兵士「とりあえず近場からあたってみますか」
秀吉「近場って?」
兵士「一番近いのは、信長さんの義弟のうちですね」
秀吉「それって16話で裏切った人でしょ?」
兵士「はい」
秀吉「てことは、今、敵でしょ?」
兵士「だからこそ、将軍様が逃げ込んでる可能性があるんじゃないですか」
秀吉「でも、敵のところに行くのって緊張するなぁ」
兵士「使者として行けば大丈夫ですよ。さっそく今夜にでも」
その夜。
ここは信長の義弟の城。
玄関のチャイムが鳴った。
ピンポーン。
義弟「ん。今、ピンポン鳴んなかった?」
部下「鳴りましたね」
義弟「インターホン、出てみて」
部下「はい。……うわっ!」
義弟「どうした?」
部下「秀吉です」
義弟「えっ」
部下「秀吉が兵士をつれてやってきました」
義弟「攻めてきたってこと? どうしよう!」
部下「秀吉は信長さん以上のブチキレ野郎ですからね」
義弟「うん」
部下「ここは逆らわないほうが無難です」
義弟「だね。賛成。開城。降伏」
部下「はい。城を明け渡します」
驚いたのは秀吉だった。
秀吉「いきなり降伏された!」
兵士「どういうつもりでしょう」
秀吉「きょう最初の訪問者に降伏するって決めてたのかな?」
兵士「謎の遊び心ですね」
秀吉「ま、とりあえず、城、占拠しとくか」
兵士「はい」
西暦1573年8月28日。
秀吉は、浅井長政(信長の義弟)の城を占拠した。
こうして浅井長政は敗北した。
翌日。
信長「サル」
秀吉「はい」
信長「ゆうべ、裏切り者の義弟をやっつけてくれたんだって?」
秀吉「ええ、まあ、流れで」
信長「じゃあねぇ、ご褒美あげる」
秀吉「なんすか?」
信長「義弟の支配してた領土をあげる」
秀吉「マジっすか!」
秀吉は浅井長政の旧領(伊香・東浅井・坂田)を与えられ、長浜城を居城とした。
貧しい農民から身を起こした秀吉がついに12万石の領主となった。