楠木正成のゆるい伝記 最終話 七生報国の誓い

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楠木正成は小山を駆け上がり、弟の姿を発見した。

小山は敵に包囲されつつあった。

楠木「七郎」

七郎「あ、兄ちゃん!」

楠木「心配したよ。さあ、一緒に帰ろう」

七郎「迎えに来てくれたの?」

楠木「うん」

七郎「わざわざ? 敵に捕まるかも知れないのに?」

楠木「だってこの前おれが迷子になった時、迎えに来てもらったしさ」

七郎「やっぱあれ、迷子だったんだ」

楠木「やっぱあれ、迷子だったの。そのときのお礼」

七郎「そんなの、忘れてもいいのに」

楠木「さあ、帰ろう」

七郎「でもね、帰れないよ」

楠木「なんで?」

七郎「もう、完全に包囲されてる」

足利軍は小山を完全に包囲した。

部下「足利さん。楠木兄弟を包囲しました」

足利「よし」

部下「攻撃しますか」

足利「いや、少し待とう」

部下「?」

足利「ふたりの、最期の時間だ…」

日は沈みかけていた。

生涯最後の夕日を、兄弟は並んで見つめた。

楠木「七郎、ごめんね」

七郎「なにがさ」

楠木「こんなふうになっちゃって」

七郎「兄ちゃんのせいじゃないしょ」

楠木「でも、反乱に誘ったの、おれだしさ」

七郎「いろいろあって楽しかったよ」

楠木「……」

七郎「兄ちゃん、泣いてるの?」

楠木「いや、ぜんぜん」

七郎「でも、目が赤いよ」

楠木「違うって。これね、感動してるの」

七郎「感動?」

楠木「あれ、夕日、見てみ。きれいでしょ」

七郎「きれいだけどさ」

楠木「あれに感動してたの」

七郎「そんな悲しい顔で感動しなくてもいいしょ」

楠木「もし、生まれ変わったらさ……」

七郎「うん」

楠木「どんな人生にしよっか」

七郎「どうしようね」

楠木「また天皇さんのバカげた夢につきあって、みんなでワイワイやる?」

七郎「いいね。そして朝は、たまに寝坊したりしてね」

楠木「うん」

七郎「朝が来ても、すずめの声を聞きながらスヤスヤ寝てるの」

楠木「それって、幸せだね」

七郎「兄ちゃん、そういうの好きでしょ」

楠木「好きだよ」

ふたりは剣を抜いた。

楠木「生まれ変わったら、また会おう」

七郎「そのときまで、ちょっとだけお別れ」

楠木「うん」

剣で互いの胸をつらぬき、ふたりは命を絶った。(西暦1336年5月)

数日後。京都。

後醍醐天皇は楠木正成の最期について側近からの報告を受けた。

側近「夕方ころ、足利さんの大軍が楠木さん兄弟を包囲したそうです」

天皇「そして?」

側近「でも足利さんは、すぐには攻撃せず……」

天皇「うん」

側近「翌朝まで待っていたそうです」

天皇「朝まで?」

側近「はい」

天皇「どうしてそんなに待ってくれたのかな」

側近「そのすきに逃げてほしかったのかもしれません」

天皇「それで? 楠木さんは? 逃げたの?」

側近「いえ」

天皇「じゃあ……」

側近「翌朝になって足利軍は包囲をせばめ、小山に押し寄せました」

天皇「うん」

側近「ふたりは、すでに死んでいたそうです」

天皇「……」

側近「すずめのさえずりの中で、幸せそうに目を閉じて」

天皇「それって、おれのせいだよね」

側近「そんなことないですよ」

天皇「おれさ、結局最後まで楠木くんに甘えっぱなしで、きっともう愛想つかされたよね」

側近「そうでしょうか」

天皇「あの世で会っても、話してくれないかも」

側近「大丈夫ですよ」

天皇「おれ、人望のない天皇だけどさ、楠木くんにも嫌われちゃったら、ちょっと悲しい」

側近「楠木さんは一枚の誓紙を残していました」

天皇「誓紙?」

側近「はい」

天皇「なんて書いてあったの?」

側近「書いてあった内容は……」

七度生まれ変わっても僕はまた天皇さんの味方になって戦う。

この”七生報国の誓い”を残し、楠木正成は散った。

その後も足利尊氏と後醍醐天皇の対立はつづき、日本はやがて動乱の南北朝時代をむかえる。

楠木正成 完

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