楠木正成のゆるい伝記 第15話 滅亡まで2ヵ月

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城を包囲してる武士たちは、ラーメン屋のおやじと口論していた。

武士「え、ぼくら、注文してませんよ」

店主「でも電話もらいましたから」

武士「朝メシ喰ったばっかで、お腹いっぱいなんすよ」

店主「じゃあ、あの電話はウソだったんですか?」

武士「ウソっていうか、電話してませんから」

店主「このウソつきー!」

武士「あ、キレた」

店主「怒った、帰る。プンプン」

一方、城の中では。

楠木「そろそろ武士さんたち、撤退するよ、きっと」

七郎「なんで?」

楠木「注文してないのに出前が届く恐怖に耐えられなくて」

七郎「そんな弱くないしょ。武士だよ、武士」

楠木「強そうな人ほど、意外に弱いんだよ」

そして。

城を包囲中の武士たちのようす。

武士1「楠木って、ぜんぜん兵力ないんでしょ?」

武士2「うん」

武士1「一気に攻めちゃうか?」

武士2「油断しないほうが、いいって」

武士1「?」

武士2「あいつ、予想外の作戦、得意だから」

武士1「予想外って?」

武士2「この前はね、熱湯攻撃してきた」

武士1「うわ、たち悪いね」

武士2「だから、油断禁物なんだよね」

武士1「……なんかさぁ」

武士2「うん」

武士1「そろそろ腹減らん?」

武士2「あ、もう昼か」

武士1「メシ喰う?」

武士2「さっきのラーメン屋に出前たのむ?」

武士1「このへんって、ほかに店ないもんね」

そして。

武士「もしもし」

店主「はい。金剛軒です」

武士「武士ですけど、出前いいっすか?」

店主「あ、さっきの武士か」

武士「はい」

店主「どうせまたウソでしょ。知らん!」

店主は電話を切った。

武士1「嫌われた……」

武士2「やばいしょ。おれら、メシ喰えないじゃん」

武士1「お腹すいたね」

武士2「これ、もしかして楠木の作戦かもよ」

武士1「なんで?」

武士2「普通、城の中にたてこもってるほうが食糧に困るもんでしょ」

武士1「うん」

武士2「でも、今回は、城を包囲してるおれたちが食糧に困ってる」

武士1「そうだね」

武士2「なんか知らんけど、おれたち、楠木の罠にハマったんだよ」

武士1「え! ぜんぜん気づかんかった!」

武士2「こうして食糧に困ってるのが、何よりの証拠」

武士1「あ、でもさ」

武士2「うん」

武士1「楠木も、食糧の補給できないよね。おれらがこうして包囲してるんだから」

武士2「そうだね」

武士1「じゃあ、楠木も腹減ってるんじゃないの?」

武士2「楠木は少数。おれたちは大軍だよ」

武士1「うん」

武士2「どっちが早く食糧が尽きるか、わかりきってるしょ」

武士1「もしかして、大軍ってことを逆手に取られた?」

武士2「うん。きっと計算ずくだよ」

武士1「楠木、すげぇ……」

武士2「じゃ、帰るか」

武士1「帰るの?」

武士2「だって、お腹空いたしょ」

武士1「うん」

武士2「早く都会に戻って、ジャンクフードとコカ・コーラ、たらふく胃に流し込もう」

武士1「そうだね」

食糧の補給路を絶たれた武士たちは、あえなく撤退した。

城の中のようす。

七郎「あ、兄ちゃん。窓の外、見て」

楠木「ん」

七郎「武士たちが撤退してくよ」

楠木「おれの読みどおりだ」

七郎「すごいね、兄ちゃん。あんなにたくさんの武士を頭脳プレーで追い払っちゃった」

楠木「さすがの武士さんたちも、間違って出前が届く恐怖に、耐えられなかったんだよ」

街のうわさ。

人々1「楠木正成vs武士の戦い、どうなるんだろうね」

人々2「え、知らないの?」

人々1「なにが?」

人々2「もう決着ついたよ」

人々1「うそぉ?」

人々2「武士が撤退したの」

人々1「武士って人数も多くて優位だったしょ」

人々2「でも、撤退したの」

人々1「なんで?」

人々2「楠木正成公式ホームページの発表によると……」

人々1「うん」

人々2「武士たちは、注文してない出前が届いて、びびったんだって」

人々1「武士、気ぃ弱いね」

人々2「おののき、慌てふためき、『ちょっと待ってくださいよぉ』と若手芸人のようなリアクションを繰り返したらしいよ」

人々1「うわ~」

人々2「情けないよね」

人々1「鎌倉幕府の武士って、そんな腰抜けだったんか~」

人々2「このぶんじゃ、鎌倉の世も長くないよ」

この事件を機に、人々の心は幕府から離れていった。

鎌倉幕府の滅亡まで、あと2ヵ月。

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