豊臣秀吉のゆるい伝記 最終話 夢のまた夢

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翌日。秀吉と北条家の子は、会って話をした。

北条家の子「…どうして、父が切腹を」

秀吉「北条家が惣無事令をやぶった責任をとって」

北条家の子「惣無事令を破ったのは父じゃなくて僕です」

秀吉「わかってる」

北条家の子「父はとっくの昔に僕に家督をゆずりました」

秀吉「……」

北条家の子「北条家の当主は僕なんです。責任者は僕です」

秀吉「家督をゆずっても親は親だから、って」

北条家の子「そんな…」

秀吉「息子が迷惑かけてすいません、って」

北条家の子「……ぼくも腹を切ります」

秀吉「お父さんはさ、自分の死で乱世を終わらせようとして死んだんだよね」

北条家の子「……」

秀吉「だから、これ以上人が死んでも、喜ばないんじゃないかな」

西暦1590年7月20日。

北条家の子(北条氏直)は高野山に入り僧となった。

ここに大名としての北条氏は滅亡した。

この年、秀吉に抵抗する勢力はなくなり、日本列島は統一された。

ある朝。大阪。

秀吉の家の庭で…

北条家の父「ハロー」

秀吉「?」

北条家の父「ハロー」

秀吉「わっ。北条家のお父さん!」

北条家の父「イェーイ」

秀吉「イェーイって言われても…」

北条家の父「死んだはずなのに登場してみました。イェーイ」

秀吉「生き返ったの?」

北条家の父「いや、霊界からフラッと遊びに来たの」

秀吉「幽霊ってことね」

北条家の父「これからも、ちょくちょく遊びに来るよ」

秀吉「怖いよ」

北条家の父「外出自由なんだよね、霊界」

秀吉「意外とルーズなんだね」

北条家の父「今度はもっと幽霊っぽくあらわれてみる?」

秀吉「いやだよ」

北条家の父「おもに夜中とか遊びに来るから」

秀吉「だから怖いって」

北条家の父「じゃあ早朝。5時半ころ」

秀吉「普通に迷惑だよ」

北条家の父「またまた~。嬉しいくせに」

秀吉「なんかさぁ、死んだらちょっとテンション高くなった?」

北条家の父「新天地での生活に浮かれてるからね」

秀吉「楽しそうだね」

北条家の父「じゃあ、せっかくこっちの世界に来たんで…」

秀吉「うん」

北条家の父「ちらっと息子に会ってくるわ」

秀吉「そうだね」

北条家の父「生きてる、よね?」

秀吉「もちろん」

北条家の父「ありがと」

秀吉「ありがとってこともないけど」

北条家の父「息子はさ、なに、今も大名やってるの?」

秀吉「ううん。今はお坊さんに転職したよ」

北条家の父「そっか。そういうのもいいよね」

秀吉「うん。いいと思う、すごく」

北条家の父「じゃあ、どっかのお寺にいるんだね」

秀吉「高野山」

北条家の父「名門でしょ」

秀吉「そうだね」

北条家の父「……ん、なに?」

秀吉「いや、べつに」

北条家の父「べつにって何さ」

秀吉「なんかさ、幽霊と話してるのって、ちょっと夢みたいだなと思って」

北条家の父「夢かもよ」

秀吉「まさか。だって、つねったら痛いし」

北条家の父「そこの葉っぱ」

秀吉「え?」

北条家の父「そこの葉っぱにさ、さっきまで朝露がついてたの、知ってた?」

秀吉「いや、ぜんぜん」

北条家の父「でも、僕たちがこうして話してる間に、消えちゃった」

秀吉「それが、なんなの?」

北条家の父「実際死んでみて思ったんだけど…」

秀吉「うん」

北条家の父「自分の人生もそんな朝露みたいな感じのもんだったのかなって」

秀吉「……」

北条家の父「しずくみたいにポチョンと生み落とされて、気がついたら消えている、っていう」

秀吉「少しきれいだけど、哀しいね」

北条家の父「人生まるごと、夢のまた夢みたいなさ」

秀吉「その言葉、僕の胸の中で大事にしちゃって、いいかな?」

北条家の父「いいよ」

秀吉「ありがとう」

北条家の父「じゃあ、もう行くよ」

秀吉「気をつけてね」

北条家の父「うん。またね」

秀吉「またね」

父の霊は高野山に消えた。

西暦1598年8月18日。

豊臣秀吉、病死。

まずしい農民から出発して天下の覇者にのぼりつめた男の波乱の人生が、幕を閉じた。

彼が死の床で残した最期の歌がある。

つゆと落ち つゆと消えにし我が身かな なにわのことも夢のまた夢

豊臣秀吉・完

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