真田幸村のゆるい伝記 最終話 さなだ松

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ここは安居神社。

幸村は友人に肩をだかれて、ここにたどりついた。

友人「大丈夫か?」

幸村「まあまあだね」

友人「すこし休みな」

幸村「うん」

幸村は松の木の根元に寄りかかって座った。

友人「ここなら誰も来ないだろう」

幸村「せみ」

友人「え?」

幸村「せみが鳴いてる」

空がせみしぐれに濡れている。

友人「いま手当てしてやるから」

幸村「ねぇ。ここって、あの神社だよね」

友人「そう。安居神社」

幸村「昔のままだね。空も、せみしぐれも」

友人「そうだね」

幸村「おれの傷、かなりやばいの?」

友人「動かないほうがいい」

幸村「戦えないし、逃げられないってわけね」

友人「大丈夫」

幸村「どこがさ(笑)」

友人「いま仲間を呼んでくる。この神社を本陣にして体勢を立て直そう」

幸村「……」

友人「その間に君の手当てをして、体力が回復したら撤退だ」

幸村「友人くん」

友人「なに」

幸村「これは負け戦だ。逃げてよ」

友人「なに言ってる」

幸村「少しでも早く」

その様子を近くで見ている敵がいた。

敵1「あれ、真田幸村だよね」

敵2「うん」

敵1「すげー大物じゃない?」

敵2「大物だ」

敵1「なんか、今なら勝てそうなんだけど」

敵2「たしかに」

敵1「幸村の首とったら、大出世かな」

敵2「間違いないね」

敵1「ちょっと、チャレンジしてみる?」

敵2「待って」

敵1「?」

敵2「もうひとりのほうが今どっかに行きそうだよ」

敵1「ホントだ」

敵2「幸村が1人きりになってから討とう」

敵1「了解」

友人「すぐに仲間を呼んで来るから、君はひと眠りしてな」

幸村「眠れるかな」

友人「あのときだって爆睡だったしょ」

幸村「ああ(笑)」

友人「いくさが終わったらまた花火でも見に行こう」

幸村「こんな体で?」

友人「はやく元気にならなきゃ」

幸村「うん」

友人「花火一発ごとにジュース飲むんでしょ?」

幸村「そうだね」

友人「じゃ、みんなを呼んでくる」

幸村「友人くん」

友人「なに」

幸村「ありがとう」

これが最期の言葉となった。

幸村は松の木に身をあずけたまま友人を見送った。

敵1「今だ」

敵2「うん」

1615年5月7日。幸村は安居神社で討たれた。

戦う力は、もう残っていなかった。

翌日、大坂城落城。

サル2世も自刃してこの世を去った。

夜。

安居神社。

兵士「この松の木が?」

友人「うん。幸村の最期の場所」

兵士「そうですか、ここが…」

友人「幸村はあのとき、ありがとうって言ってさ」

兵士「……」

友人「でもおれ、肝心なときにいてやれなくて」

兵士「……」

友人「この松だけが、幸村の最後を知ってる」

兵士「ずっと、残しておきたいですね」

友人「うん」

兵士「あ、友人さん」

友人「?」

兵士「ほら、むこうの空。花火が上がってます」

友人「ああ、本当だ」

兵士「徳川の時代が、はじまるんですね」

友人「できれば、ちがう花火を幸村と一緒に見たかったね」

兵士「僕もです」

友人「行こうか」

兵士「はい」

ふたりの背に、打ち上げ花火が遠ざかる。

――――

安居神社には、今年の夏もせみしぐれがふりそそぐ。

幸村が最期に身をあずけた「さなだ松」は、今でも大切に守り伝えられている。

真田幸村・完

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